1928年
以前 |
父(1921・7 人間)
『無限抱擁』(1927・9 改造社) |
1930 |
3月
父の活計(改造) |
1931 |
2月
随筆集『風流人』(やぽんな書房) |
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8月
『折柴句集』(やぽんな書房) |
1932 |
7月
魚釣(新潮) |
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9月
鮎釣日記抄(改造) |
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瀧井孝作と牧野信一 |
その出世作『無限抱擁』に結晶するテクスト群の主人公が「竹内信一」と名付けられているため、ということもないだろうが、瀧井孝作はしばしば牧野と並べられる。彼らを文学史的に安定させた平凡社版『新進傑作小説全集』「瀧井孝作 牧野信一集」(1929)以来併録されることもあり、「アシルと亀の子――知られざる二名作家――」(『文藝春秋』1930.6)では文藝時評を展開し始めた小林秀雄が派手な言挙げを見せている。
俳句から出発したのち志賀直哉に終生師事し、『父』(『人間』1921.7)を始めとする父親ものや『無限抱擁』の私小説世界を発表し、牧野と同世代(2歳年上)であった瀧井は、『交友日録』(『作品』1931.7)に描かれるように小林・牧野とも交際し、特に牧野の『南風譜』を認めてもいる。瀧井にとっての『文科』の季節とは、最初の妻を喪い志賀に従って我孫子から関西を経たのちに八王子へ移住、文学・生活上で安定し発展してゆく時期であった。
小林秀雄の瀧井論に端的に窺える様に、瀧井の世界は「名文」の中で理解されがちであった。しかし、こう問うてみよう。『文科』の季節、何故小林は牧野と瀧井とを『知られざる二名作家』というように、あえて並列に掲げ絶賛したのだろうか?(津久井 隆)
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